仕事で落ち込んで、
いろんな気持ちを自分で処理する余裕がなくなったあたしが頼るのは、
結局のところ、Kくんなんだった。

人前や会社では意地でも泣かない。
でも、彼の前ではわんわん泣いてしまう。

電話でも、「帰りたいよう」って言って、わんわん泣いてた。

「帰って来い」
Kくんはそう言ってくれる。

もちろん、慰めようとして言ってくれているのだけれど、
帰れないって分かっているから、よけいに悲しくなる。
 
 
 
それでも、今回は自分で自分を持て余すほど、
気持ちがぐしゃぐしゃになってた。
夜も寝つけない日が続いた。
胃を壊して、食事も飲み込むのが苦しくてたまらなくなった。
だから、週末に東京へ戻ることにした。

彼は土日休みで、私は、日月休み。
土曜日の仕事の後に、会社の飲み会があって、
朝方まで抜けられなかった。

帰宅したら、すぐにシャワーをあびて、荷物をつめて、そのまま家を出た。
眠るよりも、早く此処を出て東京に戻りたかった。
朝一の新幹線で帰ろうと思っていたけれど、
実際、乗れたのは7時くらいの新幹線だった。

9時すぎに東京に着いた。
Kくんが駅まで迎えに来てくれてた。

「疲れた顔してるなぁ」
寝てないあたしの顔をみて、Kくんは冗談めかしてそう言った。
あたしは疲れよりも、気持ちに余裕が無くて、
うまく笑うことができなかった。

Kくんが、頭をぽんぽんと叩く。

子ども扱い。
離れる前と変わらない。

バイクを停めてある場所に行くと、Kくんがヘルメットをくれた。
黒い半帽。真新しい。

「あげる。yuco専用のだよ」
「あたしの? もう、Kくんのバイクに乗ることなんて、滅多にないのに」
「そんなこと言わない」
Kくんが苦笑した。

久しぶりにバイクの後ろにのって、Kくんの家に行った。
彼は実家住まい。
休日だったけれど、家族は皆出払っているらしかった。

「部屋片付けるから、ちょっと待ってて」

そう言われて、リビングでぼんやりしていたら、Kくんが戻ってきた。
大きなクッションを渡され、無理矢理ソファに寝転ばされた。

「しばらく寝てなさい。徹夜なんだろ」

寝れないと思ったけれど、身体は思いのほか疲れていたらしい。
すぐに眠ってしまっていた。

気がつくと、Kくんはもう片付けを終えていた。
1時間近く眠りこけていたらしかった。

それから、久々に二人で食事を作った。
キッチンに並んで料理するなんて、かなり久しぶりだ。
胃の調子が悪くて、やっぱりあまり食べられなかったけれど、
普段よりはちゃんと食べることができた。

食事の後、Kくんの部屋で休憩。
ぎゅうっと抱きしめられて、キスをした。
GWに会ったばかりなのに、
すごくすごく久しぶりに抱きしめられたような気分だった。
張り詰めていたものが、しゅるりと緩んだ気がした。

「あんまり無理すんな」Kくんが言った。

ぽん、とあやすように背中を叩く。

「無理なんてしてないよ」
「嘘つけ。思いきり『無理してます』って顔してるよ」
「してないもん」
「あんなに泣いてたのに?」
「……」

「飯が食えなくなるほど無理してどうするんだよ」
「ちゃんと食べたじゃん」

「どこがだよ。全然食ってないだろ。
 yuco、会うたびに痩せてるよ。
 弱いんだから無理すんな。また倒れるぞ」

「…弱いとか、強いとか、関係ないじゃん。
 仕事だもん。できるかできないかしかないよ。
 無理しなきゃできないんだったら、無理するしかないでしょ」

Kくんは急にあたしをベッドに押し倒した。
そして、手を押さえつけて、真正面からあたしの顔を見た。
あたしは、なぜかすごくバツの悪い気持ちになった。

「俺の前では強がるな。弱いんだから」

「…弱い弱いって言わないでよ」

あたしはまた泣き出してしまった。
悔しくて悲しくて辛かった。

顔を隠そうとしたけれど、Kくんは手を離してくれなかった。

「そんなに辛いんだったら、帰って来いよ」

涙がぽろぽろとこぼれて止まらなくて、あたしはぎゅっと唇をかんだ。

「帰れるわけないじゃん。帰るとこなんてないよ」

Kくんが手を離した。
あたしは、彼に抱きついて泣いた。
彼の肩に顔をうずめて、わんわん泣いた。

「辛いよぉ」

弱音を吐いた。
 
 
 
あたしの親は、心配性で頭のカタイ人だ。
だから、東京の大学を受ける時には、猛反対された。
あたしは東京の大学でやりたいことがあったから、かなりもめた。
結局、レベル的に受かるかどうかギリギリの大学だったから、
そこに落ちたら、親の指定する大学に行くという条件つきで、
受験を認めてもらったんだった。

就職の時も同じ。
東京の企業ばかり受けていたら、実家近辺の企業の資料を送りつけてきた。
それでも言うことを聞かずに就活をつづけ、
なかなか内定をもらえずにいたら、
本当に就職活動をしているのかどうか疑われた。
就職が決まっても、企業が気に入らない、と母は文句を言っていた。
その後も、何かあるたびに「おかしな会社なんじゃないのか」って、
ブツブツ言ってる。

だから、あたしはできるだけ親に相談事をもちかけない。
愚痴も言わないし、弱音もはかない。
弱いあたしは認めてもらえないから、ポジティブなあたししか見せない。
「仕事が辛い」なんて口が裂けたって言えない。
倒れたって、実家には戻りたくない。戻れない。
泣きついたりしない。
 
今までずっとそうやってきた。
だから、泣いちゃう自分や弱音を吐く自分を認めてくれるKくんは、
すごく不思議ですごく貴重だと思う。

アナタガイテヨカッタ。
陰デ裏切ッテイルノニ。
ソウ思ウヨ。
 
 
あたしは、Kくんと久々にセックスをした。
いつものように、彼の愛撫は少し荒っぽい。
Kくんのはあたしには少し大きすぎて、やっぱり痛かったけれど、
Kくんの存在を自分の中で感じられるのは嬉しかった。

あたしは、Kくんにぎゅっと抱きしめられて、また眠った。
一人で眠れずに居た夜が嘘みたいに。

もっともっと、ぎゅうっと抱いてて。
涙は、いつだってキミの腕の中で流したいよ。

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