その人?

2004年11月9日
会うかどうか。

直前まで私は決めかねていた。

待ち合わせは20時。

時間が近づくにつれて、不安はどんどん大きくなっていた。
それでも私は着替え、家を出た。

行ってどうしたいのか、未だにわからなかった。

10分前に着く電車に乗ろうとしたが、ふと思いたってやめた。
駅のベンチに座り、電車を何本か見送った。
そして、20時10分に着く電車に乗った。
駅についてからも、ゆっくりとした足取りで待ち合わせ場所に向かった。

Mがいなければいいと思った。
もし居ても、Mの姿だけを確かめて帰ろうかとも思った。
迷いが頭の中を回っていた。
それでも待ち合わせ場所に向かっているのが、不思議でならなかった。
 
待ち合わせ場所に、一人の男性の姿があった。

目があった。
足が止まった。

「yucoちゃん?」

Mだった。

私は自分が「yuco」であることを証明するみたいに、
その場にじっとしていた。

Mが近づいてきた。

「yucoちゃんだね」

私は返事をした。
その場から立ち去らず、yucoだと認めた自分に戸惑った。
 
 
「とりあえず、店予約してるから行こうか」

Mは、普通の男性だった。
スーツもワイシャツも清潔そうできちんとしている。
29歳といっていたが、実際はもう少し若く見えた。
 
 
店に着いて私たちは改めて社交辞令的な挨拶をした。

「さて、何を話せばいいかな。とりあえず自己紹介かなぁ?」

そう言って、Mはあっさりと本名を名乗った。
Mはまず自分について少し語り、それから私に色々質問をした。

私は本名を名乗らなかった。
自分についても大まかなことしか教えなかった。

「警戒してるなぁ」

Mは苦笑していた。

チャットで話したあの日、Mは奥様と喧嘩をしてネットカフェに行き、
半ばやけくそでサイトに登録したのだという。
まさかそんな時に出会った人物と
実際に会うことになるとは思っていなかったらしく、
今日本当にに会おうかどうか迷っていたのだと白状した。
それは私も同じだと笑った。

お酒も手伝って、話しているうちに緊張は解けていった。

「yucoは、彼氏とうまくいってるの?」

私はどきりとした。

「あんまり会えないし」
「そうか。寂しいって言ってたもんな」
「でも、もう慣れたよ」

いつも友達に返すのと同じ答えを言った。

「そか。それはそれで寂しいなぁ」
「そう?」
「うーん。男の立場としては寂しいかもね」
「ふーん」

でも、帰ってきてって言ったって、困らせるだけじゃん。
仕事なんだから。

胸中で私は反論した。
 
ふと、Mが言った。

「俺、yucoを口説いてもいいの?」
「……知らない」

ごまかした。

「口説いていいなら、口説くよ」
「口説きたいの?」

逃げるような気持ちで、意地悪く言った。
Mは頷いた。

「うん。俺も男だからね。口説きたい。
 yuco、俺のタイプだし。
 だから本当はこういう風に手もつなぎたいし」

Mが、私の手を握った。
驚いたが、顔には出さなかった。
Mの手はあたたかかった。

「もっと近くに寄りたいし、
 ホテルにだって行きたいよ」

私は黙った。
あってすぐに言われていたら断って帰っただろう。

でも、私の心は揺れた。

何より、あったかい手を離したくないと思った。
 
 
「行っていい?」

私はMの手をぎゅっと握った。

そして、頷いた。

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