Mと、また会うことになりそうだ。
 
 
 
3度目のメールに、あたしは返事をした。

=M

2006年5月20日
「一緒に観に行こう」

そう約束した映画が公開になり、
テレビではCMががんがん流れてる。
 
 
風邪も治り、仕事もひと段落ついた。
テレビをつける時間が増え、そのCMもしばしば見るようになった。
 
プールオムと同じように、
その映画も“=M”という式をあたしの中に形作っている。
 
 
破りかけている約束。
返していないメール。
 
ちくり、とする。
気になる。
 
 
 
返事をしないあたしに、Mからもう一度メールが届いた。
 
『映画、始まったね』
『来週あたり、観に行こうか?』
 
 
このメールを返さなければ、本当にオワリ。
 

ベッドに身体を投げ出す。 
目を閉じる。
考える。
 
 
このまま終わったほうが、良いと思う?
――そうだね。

いつか必ず、終わるものなんだから。
――そうだね。

終わったって、あたしの生活は何も変わらない。
――そうだね。
 
彼を傷つけなくてすむ。
――そうだね。
 
わかってるけど、でも。。。
――……。
 
 
ぎゅう、と抱きしめられたい?

自然消滅

2006年5月14日
仕事が急に忙しくなり、さらに風邪までひいてしまったため、
この一週間は会社と家のベッドを往復する毎日だった。
 
 
ふと気づくと、もう5日もMにメールを返してない。
 
たぶん、このまま放置し続ければ、
Mとの関係は、すぅっと消えてなくなってしまうのだろう。
 
この1年とはんぶんの間には、
何も起こらなかったんだよ、ということになってくれるのだろう。
 
 
 
携帯を取り出し、メール画面を開く。
返事をうとうとした指が、ふと躊躇して止まる。
 
 
さよならを言うより、終わりを告げるより、ずっと楽。この方が。
 
あたしたちは、そういう関係だから。
「さよなら」とか「ケジメ」を必要とする関係でもない。
 
 
忘れ去ってしまうこと。
何もなかったことにしてしまうこと。
それが、たぶん一番良い。
 
 
 
 
 
 
あの日。あたしとMがあった日。
 
あたしは、はっきりと覚えている。
 
 
待ち合わせ場所にいた、姿。
隣を歩く、横顔。
飲んでいたお酒。
手の温かさ。
 
触れたYシャツの感触。
その下の胸のかたさ。鼓動。その音。

プールオムの香りを、あたしは一瞬で覚えた。
それは「=M」という式をあたしの中に組み込んだ。
 
 
記憶がすこしずつこぼれ落ちていくのと同じように、
Mのことも、少しずつ忘れていく。
 
プールオムの香りが鼻をかすめても、
キミのことを思い出さなくなっていく。
 
そしていつか、それ無機質なひとつの記憶となって、
ただあるだけのものになっていく。
 
 
 
「次は、映画を見に行こう」

あったその日にした約束。
このまま守れなければ、きっとその方が良いのだろう。

緊張は、とけた?

2006年5月1日
その日の待ち合わせ場所は、
初めて会った日と同じ場所だった。

偶然?
あたしの職場からも、
Mの職場からも程よい距離なのだった。

偶然?
先に着いたMに電話をかけると、
はじめてあったときと同じ場所で待っていた。
 
 
Mは髪を切っていた。
いつものようにスーツだけれど、
相変わらず、ネクタイはつけていなかった。

「久々に会うと、緊張するね」
「そう?俺は平気だけどね」
「どれくらいぶりだろう」
「たぶん、半年くらいたってるんじゃない?」
「そっか。長いね」
「うん。でも、これからはもっとたくさん会える」
 
 
「おかえり」
「誕生日、おめでとう」

Mが言った。

「言うの、遅くなったけど」
 
 
「ありがと」
 
 
 
はじめて会ってから、どのくらい経っただろう。

そのころ、あたしはまだ学生だった。
Mにとっては、20代最後の年だ。

あたしは、その頃も彼と遠恋をしてて、
Mは奥様とケンカしてた。

そしてお互い、そのことを言い訳にして出会った。
 
あの日、握った手が温かかったことを、あたしはいちばん良く覚えてる。
 
 
あれから、1年とはんぶん。
 
手のあったかさは、ぜんぜん変わらない。
   
 
「まだ、緊張してる?」

あたしを抱きしめて、Mがきく。
胸に頭を預けると、心臓がトクトクいってた。
プールオムのにおいが、ほのかにした。

「うん。まだちょっとね」
 
きちんとクリーニングに出されたスーツの感触。
その奥にある、Mの身体のかたさ。
あったかい手が、髪を撫でてた。

何度かキスをして、もっと深いキスをする。
抱きしめるMの腕にだんだん力が入り、あたしは声を漏らした。

「まだ緊張はとけない?」
「ん。心臓がどきどきいってきた」
「俺もだよ」
 
 
あたしは、Mとは友達と会うような感覚で会ってる。。。と思う。

たとえ、どんなにMのあったかさが欲しくなっても、
深入りしないよう、のめりこまないよう、
警戒しつづけていた。

はじめは、遠くにいた彼の代わりとして。
それからは、一先輩として、友達として。
 
 
会えば、セックスをすることになる。
Mはきっとそれを目的にしている。
彼を傷つけている。

分かってて会ってる。 
 
 
でも、気持ちは決して近づきすぎずにいようと思ってる。
気持のキョリ、依存してなければ、
あたしとMは「オカシナ」関係じゃないと思えるから。
「ワルイコト」をしているのではないと思えるから。
 
 
気持ちさえ近づきすぎなければ、
あたしのしてることは、『罪』じゃない。

ばかな屁理屈を、自分の中で組み立ててしまっている。
 
 
 
Mが果てて、あたしたちは抱き合ったまま、荒い息をする。
Mが、胸元に何度もキスをする。
あたしは、Mの髪を指で梳く。
 
 
「緊張は、とけた?」Mがきく。

「うん。。。」あたしはうなずく。

再会・再会

2006年4月9日
『1年間の●●での生活、おつかれさま』
『ありがと。性懲りも無く、戻ってきちゃったよ(^^)』
『来週、“帰還&誕生日おめでとう”を兼ねて、
 ふたりでお祝いでもしようか』
『いいの? 今忙しいんでしょ?』
『時間つくるよ。夜になっちゃうだろうけど』
『ありがと』
『昼も時間取れないか、調整してみるから』
『うん。無理しないでね。
 あたしは今週いっぱいプー生活だから、合わせられるし。
 夜なら、それ以降でも大丈夫』
『そっか。でも、オレは早く会いたいからね』
『あはは。じゃあ、時間取れたら連絡して』
『わかった』
『うん。ありがとね』
『じゃあ』
 
 
 
じゃあ、って言って、電話を切る。

何気ない会話。
でも、めったにしない電話を、
仕事の合間をぬってかけてきてくれたことも、
誕生日を覚えていてくれたことも、
あたしにとっては、とっても嬉しいこと。
 
 
電話では距離ははかれなくて。
キミがまた近くにいるんだ、っていう実感もわかない。

でも、
離れていた時と同じように姿が見えなくても、
手を伸ばせばきっと届く、
そんな場所に、キミは居るんだね。

「おかえり」

2006年4月8日
東京に戻ってきた。
 
 
また、全く知らない場所に家を借り、
あたふたしながら、引越しを終わらせた。
 
荷物の整理はまだ進んでいないけれど、
懐かしい友達と毎日のように会っている。
 
 
「おかえり!」
友達が、そう言ってくれる。
 
 
「実家は東京じゃないんだけどね」
そんな軽口をたたきながら、
それでも、嬉しいと思う。
すごくホッとして、楽しんでいる自分がいる。
 
 
 
「おかえり」
彼も、そういってくれる。
そして、抱きしめてくれる。
 
 
「今度離れて行こうとしたら、その時は止めるからね」
 
 
あたしは笑って、いつものように彼の胸に顔をうずめる。
苦しいくらいにぎゅーっと抱きつく。
 
 
 
仕事をやめて、有給消化が終わったら、
すぐに新しい仕事が始まる。

不安はいっぱい。

コッチに戻ってくる事が本当に正しかったのかな。
実家に帰ったほうが、楽だったのかもしれないな。
そんな、ネガティブな考えもふとよぎる。
 
 
でも。
それでも、
キミに抱きしめられたいから、あたしは戻ってきたよ。
 
 
「ただいま」

キミの腕の中で、あたしはつぶやく。

誰とでも

2006年3月14日
誰とでも寝るオンナ。
 
 
 
だと、キミは思ってるんでしょ?

攻撃

2006年2月15日
車の中で、1時間近く話をした。

自分が抱えてる病気のこととか、
あかちゃんを産めないこととか。

KくんにもMにも言ってないことを、
あたしは話してた。

なぐさめるとか、はげますとか、そういうのじゃなくて。
非難するとか、反論するとか、そういうのでもなくて。

「肩の力抜いたら?」

そういわれた。

あたしはその人に、すごく生意気な口をきいてる。
反抗期の子供みたいに、攻撃的なことばかり言ってる。
100回キレられたって、殴られたって文句は言えないことを言ってる。

「キミはすごく冷静に正論を言う。
 言ってることは正しいんだよね。
 だから、反論は出来ないし、しても勝ち目はないだろうね。
 だけど、ストレートに言い過ぎる。
 もう少し言い方を変えれば、可愛げがあるんだけど」

笑いながら言う。

あたしはじっとその人の目を見つめる。
半分睨むような目で。
隙なんかぜったい見せてやらないし、弱みも見せてやらない。
そう思いながら。

でも、言ってることは泣き言といっしょ。
どんなに冷静を装って言っても、全部そう。

泣き言とかシンドイとか。
Kくん以外の人には、滅多に言わない。

言うとしても、その人に言うみたいに、
全身を尖らせて、攻撃的になりながら言う。

腹をたててるわけじゃない。
仮にたててるとしても、相手にじゃなくて、あたし自身に対してだ。

「もっと自信を持ったらいい。
 キミは魅力的だと思うよ。
 まわりに誉められる言葉とか、事実とか、素直に受け入れたら?」

「『ミリョクテキ』なんて、
ドラマみたいな事をいう人の言葉なんか、
信じられないんですよ」

あたしはまた攻撃する。

じっと、目を睨んでる。

「そうやって、真正面から相手にぶつかっていく。
 でも、時々泣きそうな顔をしてる。
 強いのか弱いのか、わからない人だな」
 
そう言われると悔しくて、あたしはますます攻撃的になる。

あんたなんか大嫌い。
そんな睨み方をする。

でも、あたしはKくんにも話せずにいることを、
その人に話してる。
 
 
たぶん、もう少しすれば、二度とこの人に会うことがなくなるから。
そうすれば、あたしの病気とか、弱みとかをしってるひとは、
また居なくなるから。
だから、言ってしまうのだろう。

あと、2ヶ月。

「全身を刃みたいにする、って、何かの本で出てきたな。
 キミにぴったりだね」

その人は言う。

帰る場所

2006年2月12日
仕事を辞めた後、引越す先が決まった。
あと2ヶ月後には、あたしは東京にもどってるはず。
 
「なんか、実感ない」

こっちに来て、1年。
毎日、いっぱいいっぱいで、
何をやってたのか分からないうちに過ぎてった。

あっという間だけど、すっごく長くて。
こっちの部屋に居た記憶はあまりないのに、
東京に行けば、クラクラするくらい久しぶりに思える。
 
変なの。
 
大学生の頃は、こんな風に感じなかったな。
 
 
「早く戻っておいで」

キミがキスする。

あたしの帰る場所はそっちなのかな?
 
 
 
そこには、キミと、Mがいる。

BGMにまぎれ

2006年1月31日
着メロと同じ曲をきいているときに、
Mからのメール。
 
 
タイミング良いな。。。
 
 
なんだか、寂しい気持ちも恋しい気持ちも
全部、見抜かれてるみたいだ。

日曜日のメール

2006年1月30日
Mとのメールのペースは、一日に1通。

あたしがメールを送って、
次の日にMからメールがきて、
あたしがまた次の日にメールを返す。

その日のうちに返事が来る時もあるけれど、
大抵はそのペースを保ってる。

相手の一言に、また他愛のない一言を返す。
そんな会話。

お互いに、ムリせず、負担にならず、っていう
そういうペースなんだと思う。
 
 
でも、時折、そのペースが乱れる時がある。
仕事が忙しくって、送る余裕がないときとか。

別に約束してるわけじゃないから、
数日間が空いても、急かしたり、気にしたりしない。
あたしは、用事でもない限り、
Mから返事がくるまでは、新たなメールを送らない。

たぶん、Mとの関係が途切れる時は、
互いにメールを送らなくなって、
そのまま、互いを忘れてしまう。
自然消滅?
そんな感じなんだろうと思う。
 
  
 
たぶん、Mはあたしよりマメだ。
あたしが数日、メールを送らずにいると、
また新しいメールを送ってくる。
 
 
Mからのメールの間隔があくとき。
ふと、気づくと、それは土曜日や日曜日だったり、祝日だったりする。

ああ、そうか。ってあたしは思う。
 
 
ダレカと一緒にいる、
Mの『カテイ』っていうものを、
あたしはぼんやりと思い出す。

うすい殻

2006年1月23日
「yucoちゃんは、強いと思う」

キミはそう言う。
 
 
「でも、いちど『ツヨイ』っていう殻を破ったら
 一気に崩れてしまいそうな感じがする」
 
 
 
キミの言葉。
あたしはどきりとする。
 
 
 
Kくんに言われた言葉に似てて。
でも、Mに言われたことはない言葉。
  
どうして、キミが言うの?
 
 
高鳴りじゃない。

悪いことを見透かされたみたいに、
あたしは、どきりとする。

心理テスト

2006年1月18日
『あなたは、
 5匹の動物を連れて旅をしています。
 でも、5匹の動物を
 1匹ずつ捨てなくてはなりません。
 どの動物から捨てていくか、
 順番をつけてください。
 理由も教えてください』
 
 
 
?. 牛
?. 馬
?. 羊
?. 虎
?. 猿
 
 
知り合いに教えてもらった心理テスト。

あたしは、
?猿 ⇒いらないから。
?羊 ⇒連れて歩くのは面倒。
?牛 ⇒馬とか虎とケンカしそう。
?馬 ⇒旅するに上では、役に立つ。
?虎 ⇒いちばん頼りになる。
だった。
 
 
「とんでもなくツヨイオンナだよ、yucoは」
知り合いが驚いてた。
 
 
結果を聞いて、おもわず苦笑。。。

遅刻の理由

2006年1月15日
「実はね、初めて会った、
 あの日の遅刻は確信犯だったんだよ」

あたしが白状した時、Mは笑ってた。

「そうだろうと思った」

「先に来てた方がいいだろうと思って、
 実はちょっと早めに来てたんだよ、俺は」

「あんなところで知り合った女に会うのに、怖いと思わなかった?」

「怖くはなかったよ。
 でも、変な子が来たらどうしようかとは思ったかな」

「あたしが来ないかも、って思った?」

「うん。来る確率の方が低いと思ってた。
 だから、yucoが来た時、ちょっとびっくりした」

そう言って、笑う。

「でも、あの日から、
 何度も会いたいって思うようになったことの方が驚きだよ」

「それは・・・・・・あたしもだよ」
 
 
 
Mと会ってから、1年はとうに過ぎている。

あの日、あの夜の、あんな出会いが、
こんなに長く続いてるなんて。

いったいいつまで続くんだろうね。

いつまで続くのが、あたしたちにとって、一番良いんだろうね?

ねむりのよる

2006年1月15日
眠れないんじゃなくて、
眠りたくない。

そんな夜。
 
 
お風呂に入って、
ベッドにもぐる。

でも、目を閉じて、そして眠る
その行動だけがおっくうに思えて。
 

 
朝は、まだ来なくていい。
来たら、また1日が始まってしまう。

でも、もっとはやく朝が来れば、
寝なくちゃ・・・・・・っていうプレッシャーから
解放される。
 
 
 
ぼんやりと天井を眺めて、時間を過ごす。
 
白い天井。

いつか、Mがみた夢と同じ。

感じると・・・

2006年1月10日
「yucoが感じると、俺も感じる」

「yucoが濡れると、俺も興奮する」
  
 
 
 
そうなのかなぁ。。。
ってキミに濡れたあたしを触られながら思う。

濡れたあたしを触るキミにふれると、
やっぱりかたくなってる。
 
 
ふしぎだね。

てのひら、コドウ

2006年1月3日
抱きしめられると、
いつもキミのあったかさを感じる。
キミの裸の肌は、
微熱で火照ったあたしの身体よりも
あったかく感じる。

キミはそっとあたしの乳房に触れて、喉にキスをする。
いたずらするみたいに胸を吸う。

ちり、とほんの少し痛みが走って。
乳房の上に、あかいキスマークがつく。

あたしの髪をかきあげて、おでこにキスをする。

「ムリするなよ」って言う。
「yucoは俺のだから」
「うん・・・・・・」

もう一度乳房にキスして、乳首を舌で転がして。
あたしは、「あ・・・」て声を漏らす。

舌が身体の中心線に沿って下がっていく。
指は、足を撫でて、あたしの濡れてる部分をそっと触る。
あたしは、また声を漏らしてしまう。

「風邪ひいてても、感じるんだね」
からかうように言って、指を入れた。
感じる場所を探すみたいに、指を動かす。
ぐしゃぐしゃに濡れたあたしの身体が、音を立てる。

足を閉じようとすると、逆に広げられて。
そのまま指を激しく動かされて。
あたしは彼の肩をぎゅっとつかんで喘ぎ声を殺す。

「ぐしょぐしょになってる。入れていい?」
「ん・・・・・・」

彼が入ってきて、あたしはまた声を漏らす。
彼はあたしの一番奥まで入れて、そして感触を確かめるみたいに、
少しじっとしてた。

「yucoの中、熱くなってる」
「・・・・・・熱のせいだもん」

彼が激しく、あたしの奥を突いた。
「あぁっ。。。」って、泣き声みたいな声がもれた。

「感じてないの?」
「・・・・・・教えない」

彼がもっと激しく動く。
あたしの足を抱え込んで、奥の奥を突く。
「感じてる?」
「あ、あ、、、」
「感じてるんだろ?」
「ん・・・・・・」

風邪のせいもあって、あたしはすぐに息が切れてしまう。
彼の背中からも、急に汗がふきだしてた。

「熱い・・・・・・」
「熱、い?」
「yucoの中、すごく熱い」

あたしは彼と、深いキスをした。
風邪のことも忘れて、いつもみたいに深い深いキス。

お腹に、熱いモノがが散った。
あたしは、目を閉じてそれを感じてた。
 
彼はあたしの頭を撫でて、「大丈夫だった?」ってきく。
 
 
 
不安なとき、心細い時。
あたしは、キミの肩に頭を預けて、
てのひらをキミの左胸にあてて、
てのひらで、キミの鼓動をきく。

キミの鼓動は、あたしよりも大きくてしっかりしてて、
それをきくだけで、赤ん坊みたいに安心できる。
  
キスしたいときにして。
抱き合いたい時に抱き合って。
ぬくもりを感じたい時は、いつでも感じられるよう。

待たせているのはあたしのほうだけれど、
いつでも、そうしていたいと、本当に願っているんだよ。

キミの鼓動を聞きながら、口に出さずに、あたしは思う。
12月、仕事が忙しかったこともあって、
休みに入ったとたんに体調を崩してしまった。
休みになったら一緒にすごそうね、
ってKくんと約束してたのに。

会えないかも、って思ってたけれど、
Kくんは会いにきてくれた。

「ごめんね、どこも出かけられないよ」
「いいよ」
「風邪、うつっちゃうよ」
「大丈夫」

ぎゅう、って抱きしめて、頭を撫でてくれる。
前と同じに。

「放っておくと、yucoはムリばっかりするから」
「ん・・・・・・」

風邪も気にせず、彼はキスしてくれる。

「風邪ひいてるのに、くっついてていいの?」
「いいよ」
「ホントに良いの?」
「いいよ」
 
 
「あったかいね」

ひとりでいると、不安で上手く眠れないのに、
キミといると、それだけで安心できる。

「寒がりのくせに、ひとりでいるから、風邪なんかひくんだよ」
「ん」
「俺が居て、あっためてやらないと」
「うん・・・・・・」
「だから、一緒にいよう、って言ってるんだよ」
「・・・・・・」
「yucoは弱いから」
「弱くないもん・・・・・・」

「yuco」
「ん?」
「やっぱり、ずっと一緒に居よう」
「・・・・・・」
「俺があっためてあげるから」
「うん・・・・・・」
 
 
今の仕事を辞めて、新しい仕事を見つけて。
yucoがそうしたいって言うなら、
東京に戻ってくるまで、待ってるよ。

うん。
 
 
前に欲しがってた、10ロウ チェーン ハート ブレスレット。

「指輪よりも喜ぶだろうと思って」

東京に戻るまで、大事につけるね。

突然の電話

2005年12月14日
仕事を辞めるって、
Mにメールを送った。

いつもの他愛のないメールの最後に、
他愛のない話みたいに一言。

『あと、仕事辞めることにしたんだ。ご報告まで!』って。
 
 
何ともない話題の一言として。
「そうだったんだね」って、流してくれたらいいな、って。
 
 
 
でも、
その日の夜、Mからの電話。
いつものメールと同じ、着信音。
だけど、画面を見て、あたしはどきりとする。

どうしようか、って少し悩んだ。

電話にでた。
「もしもし」Mの声がする。

「もしもし」
「久しぶり」
「仕事の帰りに電話してみた」
「そう」
「……仕事辞めるの?」
「うん」
「いつ?」
「3月末かな」
「じゃあ、急に辞めるってわけじゃないんだ」

ちょっとホッとしたみたいに、Mが言う。

「今すぐ辞めるのかと思った」
「いくらなんでも、それはないよ」あたしはいつもみたいに笑う。
「じゃあ元気なんだ」

「心配してくれたの?」冗談めかして言う。
「何かあったのかと思った」
「そっか。ごめんね」
「いや、声聞いて、元気そうだから安心した」
「うん、大丈夫」

あたしは少し笑う。
「どうした?」
「なんか変な感じ」
「そう?」
「だって、電話なんて全然しないから」
「変?」
「ううん。変じゃない」
 
 
嬉しい。
そう思う。
でも、なんだか急に恋しくなって、胸がぎゅうっとなる。

『会いたくなっちゃったよ』
『ぎゅうってして欲しくなっちゃった』

言葉を飲み込む。
 
 
10分くらいの、短くて、ちょっと長い時間。

「じゃあ、そろそろ帰るね」
「うん」
「じゃあ」
「うん」
「切るね」
「うん」
「じゃあ」
「うん。じゃあね」
「うん」
「ばいばい」

切り際をつかめずに、もたつく会話。

プールオムのあの匂いが、微かによぎった気がした。

『だいじょうぶ』
でも、まだ何も決められてない。
不安で不安で仕方ない。
 
 
『会いたくなっちゃった』
『ぎゅうってされたいよ』

仕事

2005年12月5日
仕事を辞めることにした。
上司には伝えたけれど、実際に辞めるのは年度末。

入社当初から、ずっと今の会社で働くつもりはなかった。
けれど、一年で辞めようとも思ってなかった。

「もっとやりたい仕事がある。それを追いたい」

それは嘘じゃない。
でも、単なる大義名分。
あたしは、この一年、
「もっとやりたいこと」を追うために必要な勉強をしてなかった。
だから、本当に今辞めて、次に繋げる自信はない。

それでも、後一年続けるのは無理だろうな、って思った。
悩んで悩んで、結論を出した。
今後のことでは、まだ何も決まってないし、
悩んでる途中だけど。
 
 
 
「仕事、辞めるね」

両親には話した。
Kくんにも話した。

Mには、まだ話してない。

Mの前では、前向きなあたしでいたいから、
悩んで不安がってる状態で、話をしたくない。
 
 
 
話そうか、どうしようか。

そう思ってる最中に、Mからメールが来た。

あたしはどきりとした。
 
 
他愛のないメールに、他愛のない返事をおくる。

大事なことは、何も話さない。
その方が、キミとは心地良い。

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